コンサートマナーを考える

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マナーガイドを考えるに当って

アザレアのまち音楽祭ディレクター

 今年度のアザレアのまち音楽祭ほど、聴衆の皆様からコンサート・マナーについて具体的なご意見を伺った事はありません。寄せられたご意見の中で、もっとも要望の強かったスタッフの接客態度の向上については、マニュアルを作成し、セミナーを開催する事で学習し、来年度に備えています。ところで、アザレアのまち音楽祭を初体験された皆様からは、コンサート・マナーについて、初心者にも分かりやすいガイドを作るべきだとのご意見を頂いています。本来は聴衆の皆様の自由な感性でお聴きいただくのが本筋ですが、クラシック・コンサートと言う独自な社会性を持つ独特な共同空間を、共に楽しむために最低限必要なマナーについて考えてみたいと思います。

コンサート・マナーについて気になること

 コンサートを楽しむために、諸々な感性を携えたお客様がお出でになりますが、その価値観と評価軸はまちまちです。それらの方々が、それぞれの方法で音楽を楽しんでいただく為には、お互いがいい条件で鑑賞したいという姿勢を持ち合うことに尽きます。結論的に言えば「良い聴衆がいるところに良い音楽が生まれる」と言うことなのです。私たちは良い音楽を求めています。そして、美しい音楽に出会いたいと思ってコンサートに出かけます。その会場が楽園になるか、味気ない砂漠になるかは、そこに集う聴衆の皆様の音楽鑑賞の常識的なマナーが守られているかどうかに係わるのです。
 アザレアのまち音楽祭はクラシック音楽中心のコンサートですから、コンサート・マナーもクラシック音楽に係わるマナーとなります。何故、こんな事を申し上げるかと言いますと、音楽のキャラクター(ジャンル的なものから個別的なものまで含んで)によって、そのマナーは全く異なるからです。クラシック音楽マナーは、ロックコンサートでは非常識となります。その逆も当然あります。同じクラシックでも、コンサートホールでの音楽の楽しみ方と、オペラ鑑賞とではかなり違ったマナーを要求されます。そのTPO(T=タイム=時、P=プレイス=場所、O=オケージョン=場合)が強く求められるのが現代のコンサート事情でもあります。
 ヨーロッパでは今でもコンサートはひとつの社交場となっています。コンサートにお出でになる主な目的が社交だと言う人は多少ならずいる場合がありますが、アザレアのまち音楽祭ではご招待で招かれる人の中に、もしかしたら、一般聴衆とは次元の異なる意識で来場する人もあるかも知れません。それらの方もいい聴衆として行動していただけていると思っています。しかし、一般聴衆にとって、異質な存在であると感じられては不味いのです。アザレアのまち音楽祭は、一般聴衆の「音楽を聴く」権利を保護し、保証するのが主催者の義務であると考えています。ですから、ご招待の方にもコンサート・マナーを守っていただき、一般聴衆の音楽を聴く権利を阻害されることがないような配慮が必要になります。この辺りの対応が、主催者としては悩ましいところであり、招待であろうと身銭を切ったお客さまであろうと、コンサート会場に来た以上、目的は「音楽を聴く」ということに集中していただけたらと願っています。

音楽を聴くとは

 若い方たちの参集するポピュラー音楽のコンサートであれば、歓声をあげたりリズムを取って踊ったりすることが歓迎されるものです。そうは言っても、巨大なアリーナで開催されるアイドルのコンサートにもかなりレベルの高いマナーが存在しています。しかし、アザレアのまち音楽祭の、オーケストラのコンサートで歓声をあげるなどとんでもなく、絶対の静寂が求められます。テレビで見るウィーンフィルのニューイヤーコンサートのアンコール定番曲「ラデツキー行進曲」での、聴衆が演奏に合わせて拍手するのは例外中の例外です。
 そこで問題になるのは、「音楽を聴く」ということと「音楽を楽しむ」ということが同義語だと勘違いされているのではとの危惧があります。よく言われることに、「音楽とは音を楽しむと書く」だから音楽は自由に楽しければいいとか、それに派生して「人はそれぞれ音楽の楽しみ方が違うのだから定番はない」などと主張されるものです。この論には、音楽を聴くと言う芸術行動の視点が抜け落ちています。
 さて、「聴く」とは、音楽に集中して鑑賞することだと認識して欲しいのです。ですから、聴衆各自の「集中」を邪魔する行為はマナー違反となるのです。「良い聴衆」と言うのは、その集中力を高いレベルで維持しあう関係性が構築された集団の事だと思います。ですから、他人同士の聴衆がお互いに干渉しあうものであるという認識が重要になるのです。そこにマナーが存在するのです。
 かなり、難しい言い回しになりましたが、端的にいえばコンサート環境を破壊するマナー違反は、次の要因によるものです。@雑音 、A振動、 B臭気、 C視野妨害 、D体調不良 です。アンケートコメントで、マナーに関する苦情の多い事例をランキングにしてまとめてみます。( カッコ内は筆者の感想 )
@咳やクシャミをする時は、ハンカチを口にあて音を小さくしてほしい!(これは、常識中の常識です)
A強い香水は隣席が迷惑!酒を飲んだ後に来るな!酒臭くて迷惑だ。 (これは個人差がありますので、一概には言えません。お酒に関しても、以前のアザレアのまち音楽祭では、常設サービスとしてワインを出していました。近年、飲酒運転が社会問題となったこと等を考慮し、飲み物サービスは控えています。)
B音楽に合わせメロディーを口ぐずさんだり、体を動かすのは、やめてほしい。(特に音楽とずれて動いている場合など最悪の状況となります。)
C演奏中にチラシやプログラムは見ないでほしい!(これは、聴く事に集中していない証拠です。しかし、原語で歌われる声楽曲の場合は、対訳を見ながら聴くことはあり得ます)
D小声でも話はしない事。(最もダメな鑑賞法です。確信犯的に他人の鑑賞を阻害します)
Eマナーを無視する方は注意をしてほしい。(注意する事で、音楽に対する興が冷めたりするものです、何か良い方法はないものか?)
F招待席で一番良い場所を占有しないで欲しい。(アザレアのまち音楽祭では一切招待席は作っていません)
G拍手のタイミングを知らない人が、せっかくの感動を壊している。(拍手の仕方については、別項で触れます。つまり、音楽の中身をよく理解していなければ、そのタイミングは分からないものです。分からない方は、コンサートの流れに沿って他に同調する拍手が安全です。自分の感動や思い込みで、自由で良いのだと思い上がると失敗は必定で、他の聴衆から非難の嵐を浴びる事になるでしょう)
Hコンサート中にガムを噛んだり、飴玉を食べるのをやめてほしい。(問題は、包み紙をはがす音が雑音になるのです。飴玉をしゃぶる事は、咳を抑える効果がありますので、演奏前の休憩時間に口に含めば安全です)
I音楽を聴きながら寝るのはとても気持ちいいものです。しかし、演奏中にいびきをかくのはやめて欲しい。(やめてといわれても、寝てしまえばコントロール不可能です。つまり、いびきをかくほど熟睡しないで、寝たふりぐらいで聴く事をお勧めします)
J演奏中にコンビニの買い物袋を動かす音は最悪です。(アザレアのまち音楽祭でも、かなりの苦情がありますので、次年度からは、荷物預かりの仕組みを考えます)
K演奏中に鈴の音を聞いたことが何度もあります。音楽を楽しむ空間にもち込まないで下さい。(音楽祭始まって以来、毎年苦情の出る問題です。特定の方が財布に鈴をつけて、和服の帯に挟んで、鈴を垂らしておられるのが原因です。また、若い方でもカバンに鈴をアクセサリーとして付けておられ、ご自分では全く気になっていない方もあります。この問題を解決するには、ご本人にお願いするしか方法がないようです)
L携帯電話の音や時計のアラーム音は、許せない。コンサートが台無しになる。(正にその通りです。アメリカでは既に条例で禁止され、違反すると罰金50ドルが課される州もあるようです。自分の自由は尊重するが、他人の自由に無頓着な日本社会では考えられない文化の違いかも知れません)
Mホール内で写真撮影は全面的に禁止すべきです。(お客様の写真撮影はずっと禁止させていただいていますが、事務局サイドの記録用写真は必要不可欠です。昨年度、お客様からアンケートコメントで厳しく叱責され、今年度からは、客席での写真撮影は事務局も行っていません。)
  聴衆の皆様にはマナーを守って頂き、お互いが楽しく音楽をお聴きくださいますよう願っています。
  そこで、基本的なマナーについて、まとめてみたいと思います。

コンサート・マナー

T.演奏中は音をたてないこと!

 @携帯電話やアラーム腕時計はスイッチを切ること。
 Aおしゃべりは厳禁。
 Bホール内での飲食も厳禁。
 C雨天日の傘は傘立て(ホールの入口にあります)に、かさばる荷物はクローク(来年度より設置します)に預けるか、椅子の下に置くこと。
 D演奏会のパンフレットは演奏開始前か休憩時間に読んでおくこと。演奏中にパラパラとめくるのは隣人に迷惑です。
 E万一風邪などで咳や鼻水がかなり出そうだったら、あらかじめ薬を飲んでから行きましょう。どうしても出てしまう咳やクシャミはハンカチで押さえてください。
 F財布に付いている鈴は、とても大きくホール内に響きます。鈴を財布からはずすか中にしまいましょう。
 Gスーパーのポリエチレンの袋をいじるとホール内でかなり響きます。会場には持ち込まない、持ち込んだ場合は、演奏中にいじらないように。
 H咳止めの飴をなめる時、包み紙をはがす音がホール内にかなり響きます。なめる時は演奏前か演奏の合間に。

U.拍手は曲が終わってから。 

 演奏曲目によっては、数曲で一曲と言う組曲や3楽章から5楽章からなるシンフォニーもあります。基本的に楽章と楽章の合間(交響曲なら原則として4楽章)では、拍手しないのが通例です。いや、してはいけません。と言う事で、
 @曲の終わりが自分で分からない時は、急いで拍手しないで、周囲の人が皆拍手していたら一緒にしてください。
 A演奏が気に入らなかったら、無理に拍手する必要はありません。拍手をする代わりにブーイング(不満を表す意思表示)する事もむ自由です。しかし、アザレアのまち音楽祭では、ブーイングを聞いたことがありません。それは、演奏が素晴しかったからと言うより、聴衆の皆様の暖かい思いやりのなせる技だと感謝しています。
 B演奏に感激したら、盛大な拍手をお願いします。ブラボーなどの声をあげるのも結構ですが、曲によっては (今年のレクイエム公演で、演奏が終わると同時にブラボーが入り、大方の非難を受けました。本人は好意の表現としてブラボーと叫ばれたのですが、当日のレクイエムは、アザレアのまち音楽祭に出演し続けていた同人の死を悼んで演奏しますとアナウンスがあったにもかかわらずの失態でした。無知だからごめんねが通用しないのが芸術の鑑賞なのです。)ブラボーがふさわしくない場合がありますのでご注意ください。

V.演奏の録音・撮影などは、許可を受けた人以外には禁じられています。

 雑音として機械操作音やシャッター音が出ないのであれば良いのでは、との意見もありますが、雑音としての禁止ともうひとつ、著作権・肖像権の問題があるのです。

W.服装は、普段着で結構です。

 特におしゃれをする必要はありません。無論、おしゃれをしていけないということではなく、盛装したい人はお好みでどうぞ。

X.お願い

 アザレアのまち音楽祭のアンケートコメントを見ていると、会場に足を運ぶ方々の多くは、そこで体験する演奏について自分の理想を思いえがいたり、ワクワクドキドキしながら緊張して居られるようです。こうした期待や欲求に演奏が応えているかどうかは、人それぞれです。問題は、演奏された音楽に感動したり、あるいは落胆し、激怒される場合もあるものです。それらの感情を、演奏途中に表現されては困ったことになります。そのリアクションによって他の聴衆に影響を与えてしまっては、他の方々の「聴く」という集中力を阻害してしまうのです。もしかしたら、その演奏を素晴しいと集中して聴いている方の、「音楽を最後まで聴く権利」を阻害する事になりかねません。はっきり言えば、演奏中のリアクションは他人にはただの迷惑行為に過ぎないのです。もしかしたら、演奏後のリアクションでも、自由な音楽鑑賞の権利を大きく侵害してしまうのです。酷いと言って、途中で退席する権利も聴衆にはありますが、その権利行使を行う事で他人の権利を侵害してはダメなのです。ひとりひとりの聴衆が、音楽を聴く環境を相互に保全しあう精神こそが、コンサート会場では求められる最大のマナーなのです。